キリスピブログ(仮)

好きなこと(ひとまずスピッツ)についてわーわー語るブログです。

大切な日付

ちょっとした前置き

え~、このブログではサッカーのことは書かないつもりだったのですが、

ルヴァン決勝のことは書いておきたいので書きます。

俺がルールだ!!!!

 

 

本編

 

2021年10月30日。

 

 

午前10時すぎ。

 

ルヴァンカップ決勝、名古屋グランパスセレッソ大阪が開催される

埼玉スタジアム2002への、岐阜県の自宅からの道中。

 

俺はひとりで京浜東北線の車両に揺られていた。

 

同行する予定だった友人からは、前日に

家族の具合が悪くなってしまい、一緒に埼スタに行けない、

という連絡を受けた。

 

申し訳ない、と謝る彼に、むしろ来るって言ってたら怒ってたぞ、と返して、

かくしてひとりの遠征となった。

 

俺はTwitterのタイムラインを眺めながら、

かつて友人とふたりで行った天皇杯決勝のことを思い出していた。

 

 

あの試合のことを思い出すときは、

泣いてしまったことを必ず一緒に思い出してしまう。

 

今日は悲しい涙は流したくないな。そう思った。

 

 

正午過ぎ、埼スタの自分の席にたどり着く。

カテゴリー4(北)。

 

それにしてもいい天気だ。

ピッチの緑が眩しい。

 

東京で買った昼ご飯のパンを食べながら、ひと息つく。

 

試合前のウォーミングアップに選手たちが出てくる。

ゴールキーパー、次いでフィールドプレーヤー

精一杯の拍手を送る。

 

気持ちが少しずつ昂り始める。

ああ、決勝ってこういうものだったな・・・。

そうだそうだ。

 

 

 

試合が始まった。

 

序盤に前田のいくつかの良い動きから名古屋側に天秤が傾くも、

時間の経過とともにその傾きは小さくなり、

飲水タイムを過ぎてからは逆にセレッソ側に傾いていく、

そんな印象のあった前半。

 

ボールが奪えない、奪えても保持できない、前進できない。

苦しいながらも、0-0のままハーフタイムへ。

 

このままではもたないかも・・・と思いながらも、

チームとしてのプランの許容範囲内なのかもな、とも。

ずっとこのままではなく、後半のどこかで試合が動くか、

あるいは動かすか。

 

後半、セレッソが清武を投入してきたことで、

どうなるかな・・・と思ってたら程なくして試合が動く。

 

コーナーキックを相馬が蹴り込むと、

低いボールがファーサイドまで抜けて誰かが飛び込み、

ゴールネットが揺れる。

 

・・・前田だ!!

 

後から確認したら、ニアで柿谷が完璧なフリックを決めていた。

 

これで名古屋に試合が傾いた、そう思った。

しかしその後、カウンターから縦に仕掛けた前田の決定的なシュートを

キムジンヒョンが信じられない反応で弾いたシーン以降は、

再びセレッソの時間帯が続く。

 

前半終盤のような、ボールが奪えない、奪えても保持できない、前進できない時間。

 

飲水タイムのタイミングで俺は、

夢生が居れば前でキープもしくはファウルがもらえて、

時間が作れるんじゃないかな・・・と思ってた。

 

しかしその数分後、柿谷に代わって投入されたのは、

夢生ではなくて、クバ。

 

そうか、そっちのパワーを選んだか。そう思った。

 

そして、79分。

 

クバの粘りから、既に途中投入されていた学が、

左サイドでボールを受けるとドリブルを開始。

タッチがやや伸びたボールを相手DFがクリアすると、

クバに当たって跳ね返り、最終的にスピードに乗ったクバの元にこぼれ、

一気に抜け出す。

やや厳しい角度から放った左足シュートがキムジンヒョンの左足に阻まれ、

ボールはペナルティエリア内のスペースに転がる。

誰よりも早くそこに駆け込んできたのは、やはり・・・稲垣!!!

 

難しい高さにバウンドしたボールを右足で、文字通り「叩く」。

強烈に弾んだボールがキムジンヒョンの手を掠め、

力強くゴールネットを揺らした。

 

正直、これで大丈夫だ、いける、と。そう感じた。

 

 

 

85分を過ぎた頃だった。

 

ピッチで戦いを続ける選手たちへと手拍子を送りながら、

俺の頭の中には色々な想いが駆け巡っていた。

 

大丈夫だ、あともう少しで勝てる。

ついに、本当に、ルヴァンのタイトルを獲れる。

苦しいことも沢山あったけど、選手たちが報われる時が、

もうすぐそこまで来てる。

 

この試合のピッチに立てなかった選手のこと。

この試合を観に来れなかった人たちのこと、友人のこと。

 

 

 

あ、ヤバい。

 

 

眼の奥がキュッとなり、視界がぼやけ始める。

 

ダメだろ。

泣いてる場合じゃないだろ。

まだ試合終わってないんだぞ。

涙拭いてる暇があるなら、手拍子送らなきゃ。

 

ピッチでは選手たちが必死に戦っているんだ。

 

丸山の離脱後、キャプテンマークを引き継ぎ、

チームのことを背負い込み過ぎるくらい背負い込んで、

チームを支え続ける中谷が、

ボールを、相手選手を跳ね返し続けている。

 

中盤では稲垣や長澤が走り続け、戦うことをやめない。

 

左サイドから前線にかけては、この大一番で久しぶりにメンバー入りし、

途中出場を果たした学が、途切れることなく相手選手に圧力をかけている。

学なんて、特にここ最近は試合にも絡めず本当に苦しい時期だったろうに、

自分ではなくチームのために、チームが勝つことだけのために、戦っている。

 

そうなんだ。

俺はこれをずっと見たかったんだ。

チームが一つの目的を果たすために、全員がひとつの意思を持って動くところを。

 

誇らしかった。

 

みんな、凄いよ。

全国のサッカーファンよ、この凄いチームを見てくれよ。

彼らを見てくれよ。

俺たちを代表する彼らを。

俺たちのクラブの、過去から続く長く苦しい歩みと、

クラブを離れて行った沢山の人たちが積み上げた物の上に立つ彼らを、さ。

 

 

 

そんな想いが頭を支配する。

涙が止まらない。

眼鏡を外して涙を拭い、眼鏡を元に戻してもう一度手を叩き始める。

 

こんなにも素晴らしい選手たちが、あともう少しで報われるんだ。

俺はそれがたまらなく嬉しいんだ。

 

涙はまた流れて、俺の視界を奪う。

もう一度涙を拭う。

 

そんなことを繰り返した末に、

俺はもう手が叩けなくなってしまって、

目元を押さえながら辛うじてピッチを見ていた。

 

カップを勝ち取る瞬間をちゃんと見なきゃ。

みんなが勝つために戦っているところを、ちゃんと見届けなきゃ。

 

アディショナルタイムに入って少しした頃だろうか。

 

カウンター気味にピッチ中央をドリブルで進むセレッソの選手。

うそ、いやだ、やめてくれ・・・

 

そう思った瞬間、豊がその身体を投げ出し、セレッソの選手の突進を完璧に阻む。

激しい接触にも関わらずすぐに立ち上がり、

奪ったボールの捌きどころを探す豊。

 

その姿を見て、俺はもうダメだった。

 

下を向いて、泣き声を押し殺すことだけに力を使って、

もうただひたすら泣き続けた。

 

みんな、手拍子で後押しできなくてごめん。

見ていてあげられなくてごめん。

頑張れ―――。

 

同じ列に居たお姉さんがた、(たぶん)見て見ぬふりをしてくれてありがとう。

 

 

数分後、何とか呼吸を整えて、涙を拭い切って、

もう一度前を見ることが出来た頃に、家本主審のタイムアップの笛が響いた。

 

 

勝った・・・!

優勝だ・・・!!

 

ピッチで、スタンドで、いくつもの歓喜が爆発する。

 

一旦止まった涙が再び流れ始めた。

そっか、もう我慢しなくてもいいんだ。

泣いていいんだ。

 

 

みんな、おめでとう・・・!!!

 

精一杯の祝福の拍手を送っていると、

誰よりも早くゴール裏方向へ向かった前田が、

ど派手にジャンプしてガッツポーズを決める場面が視界に飛び込んできた。

 

「あっは」

 

あまりに無邪気な前田の姿を見て、

思わず俺は笑い声が出てしまった。

 

そして、笑うことが出来たことに少しだけ安心した。

なんだ。

笑えたやん。

大丈夫。

ちゃんと笑ってお祝い出来そうだ、そう思った。

 

 

喜ぶみんなの姿を撮影しようとスマホを構えた時、

画面に「着信」の文字が。

母だった。

 

 

「観とったよ、勝ったね。」

「うん、やったよ―――」

 

そう答えた瞬間、自分が涙声なのに気づいた。

急に気恥ずかしくなってしまい、

勘付かれないように最小限の言葉で勝利を祝い合い、通話を切る。

ひょっとしたら泣いていたこと、バレてたかもな。

 

 

喜びの空間は続いていた。

 

稲垣のインタビューで使われた「絶望」という単語。

誰よりも長くチームと共に居る武田のカップリフト。

喜ぶ丸山や阿部ちゃんの姿。

 

全てが俺の心の奥の、深いところに刺さってる。

 

 

優勝するって、タイトルを獲るって、最高だな。

 

 

 

その日の夜は、志を同じくした人たちと一緒にお酒を飲み、

美味しいものを食べながら、

昼間の試合のこと、

名古屋グランパスの今までのこと、

現在のこと、

これからのことを、

いっぱい話した。

夢のように幸せだったな。

 

 

名古屋グランパスルヴァンカップ優勝おめでとう。

そして、優勝をありがとう。

これからもよろしくね。

 

 

 

翌朝、宿泊先。

起床と共にシャビエルの今季限りでの退団の報道を目にする。

色々な想いが浮かんでは頭を巡った。

 

 

その夜に会った人は、

クラブの名前とチームカラーしか知らなくても、

こちらが何も言わなくても、率先して

名古屋グランパスルヴァンカップ優勝を祝って、乾杯してくれた。

本当に嬉しかった。

 

 

遠征から帰って、夜が明けて、月曜日。

 

職場で、今まであまり深く話したことのなかった方との世間話。

流れで、土日に関東へサッカーを観に行った話をした。

「名古屋、初めてでしょ?優勝。よかったやん」

そう言ってもらえて、ニコニコしてしまった。

 

午後の仕事中、ふと土曜の試合の後半アディショナルタイム前後のことを思い出した。

気付いたらまた涙ぐんでいて、誰にも気づかれないように密かに涙を拭いた。

 

俺はこの気持ちを書き残そうと思った。

その夜からブログを書き始めて、今は木曜日の22時。

リーグ戦は昨日の柏戦から既に再開している。

 

チームはもう、次の戦いを始めている。

 

あとちょうど一ヶ月で、今季のリーグ戦も終了する。

そうすれば、もう今と同じ選手たちで戦うことは二度とない。

シャビエルの件も含めて、必ずいくつかの別れが発生する。

そのことを、俺たちは嫌というほど知っている。

 

ある人は嘆き悲しみ、

ある人は怒り、批判し、

ある人はただ感謝と惜別の言葉を語り、

ある人は諦めたふりをする。

 

そして、みんな同じように少しだけ傷ついて、次のシーズンへ向かうんだと思う。

 

 

 

「2021年10月30日」は、

俺たちにとって、

俺にとって、

大切な、本当に大切な日付になった。

 

俺はこの日の埼玉スタジアム2002で見たチームと景色を一生忘れない。

あの後半アディショナルタイムに、

悲しくもないのにあんなに涙を流させた感情を、

大事に心の奥にしまって、

ずっとずっと手放さずに生きていく。

 

 

 

友人とは、明日の金曜に、改めて二人で祝勝会をやる約束をしている。

何から話そうかな。

どうせ最後には泣いてしまうと思うから、

いつもより速いペースで飲んでしまおう。

せめて、涙を酒のせいだとごまかせるように。